10月3日の木曜日、3年程前に安泰寺を訪れたのがきっかけで知り合ったネルケ無方老師の講演がありました。
無方さんはベルリン出身の禅僧です。高校時代に禅と出会ったことがきっかけで日本を訪れ、1993年に出家し、僧堂での修行を経て2002年から兵庫県安泰寺の住職をされています。
この日は私の地元である鳥取県の米子市文化ホールでの講演。
実家の両親と三人で駆けつけました。
「安泰寺はお前がつくるのだ」
初めて安泰寺に参禅した時に無方さんは師匠からこう言われて衝撃をうけたそうです。
しかしある時は
「お前なんかどうでもいい」
そう言われて怒られる。
そんな禅修行の葛藤を野菜に例えて話してくれたり。
たくさんの美しい写真を交えながら流暢な日本語で語られる安泰寺の暮らしはとても興味深く、500席以上ある文化ホールに集った聴衆からは笑いや感嘆の声が絶えません。その姿勢や語り口から伝わってくる彼の実直な人柄に、著書を読み込んでいる私の両親も増々ファンになったようです。
翌朝、米子駅を発つまでに少し時間があったので早朝の皆生海岸を一緒に散歩しました。
自分にとってもひさしぶりの渚についつい心踊り、相手が一カ寺の住職さんであることも忘れて雪駄を脱いでカニとジャンケン。無方さんはというと、波に湿った砂を素足で踏みながら涼しい顔で軽やかにテトラポットを飛び越えています。365日自給自足の生活をしている老師には、心配無用だったようです。
近代的な社会生活と伝統的な禅の生活を両立させることの楽しさ、難しさについてたくさんの貴重な想いを聞かせて頂きました。
「多くの人が今の社会のあり方に疑問を持っている。いかにそれを解決するか、星覚さんには明確な答えがありますか?」
無方さんは、このような質問を投げかけてくれました。
沈黙が砂浜を歩きます。
「あります」
「それは何ですか?」
日本ではあまり聞かないダイレクトな問いかけに、なんだかベルリンにいるみたいだなぁと思いました。
しばらくは、浜風の音だけが響きます。
私は、言葉にならない言葉を伝えました。
無方さんは深くうなづいて
「そうですか」
と水平線に目をやりました。
それからまたたくさんの話をしました。生まれも育ちもお坊さんになった経緯も全く違う無方さん。私のような小僧がいうのもナンですが、一緒に育った兄弟のように思えてきてなんだか嬉しくなりました。
安泰寺は現在本気で禅の修行をしたい人に、在家、出家、男女の別を問わずに門戸を開いています。志のある方は、是非公式ウェブサイトもご覧になってみて下さい。
http://antaiji.org/
今週も好い日々となりますように・・・!
星覚九拝
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