雲水喫茶の日替りマスター!!

ポーランドはまだ滅びていない

夜中の2時に目が覚めました。
今、僕はポーランド出身の雲水である法純さんに招かれポズナンのとある夫婦の家に夏来、一星と天心禅兄の4人で宿泊しています。

th_IMG_3006.jpg

小学生の時に父親の仕事に手をひかれ、泣きながらイヤイヤ住んでいたこの国をこうして訪れているのですから人生はわからないものです。

ポーランドの国歌はこんな唄いだしから始まります。

"Jeszcze Polska nie zginęła"

ポーランドはまだ滅びていない


検索をしたら2008年に村上光照老師の摂心に随行して欧州を訪れた際の日記が出てきました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「カローシって知ってる?」

一生懸命花を摘む息子を優しく見つめながらカロリーナは突然言った。私は最初「過労死」という言葉が浮かんでこなかった。

「日本人は働き過ぎで死んでしまう人もいるらしいけれども今はポーランドでも同じ様な状況になってるかもしれないの。」

と彼女は語り始めた。

「民主化による資本主義経済改革で貧富の差が大きくなった。のんびりしていた生活は忙しくなり、休日返上で深夜まで働く人が増えた。ポーランド人が大切にしてきた礼節も失われ、自由の名の下に子供を甘やかし、老人を敬わなくなっている。核家族化がすすみ近隣のコミュニケーションがへり、 鬱になる人や心の病を感じる人が多くなり、仏教や東洋思想に精神的な安らぎを覚える人が増えている。ポーランドでチベット仏教が盛んな理由の一つはこの国の歴史にある。チベット人は国を奪われた。この国もまたドイツとロシアに挟まれ何度も国が滅びてきた。この国の歌は

"Jeszcze Polska nie zginęła"
(ポーランドはまだ滅びていない)

という刺激的な歌詞で始まる。 

この国の人々は財産を持つという事がなかった。全てのものは無常で、唯一の財産が自由と誇りだった。それらがあれば幸せだったのだ。ところが最近ではハロウィンやバレンタイン等を祝い、大晦日も最近ではお祭り騒ぎ。昔は静かに年を越していたのに・・・」

カロリーナの不安は次々と言葉になって紡ぎだされる。日本と同じじゃないか!話を聞いているうちに僕は強く思った。ポーランド人は、同様に戦争で徹底的に破壊されながら先進国として発展している日本にとても好意的な印象を抱いている。近代化の波の最中にあるこの国に日本と同じミスをくりかえしてほしくない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「日本と同じミスを繰り返してほしくない」という言葉が身体に突き刺さって響きました。
あれから4年が経ち。
まだ、滅びていない、と唄うこの国の人々に何が伝えられるのか。

日本では「日本は滅びる」と口に出そうものなら、ちょっとおかしな人みたいな扱いをうけるでしょう。いや、そんなことをめったに口に出したことはないのですが、僕自身も誰かがそう言っていたら「え、ちょっと大丈夫かな?」と思ってしまいそうです。

「でもさ、国が滅びるって祇園精舎の時からわかりきってることじゃない?逆に滅びない国なんてあるの?いっそはっきり言った方がいいんじゃない?いや、言霊っていうし・・・日本はまだ滅びていない?」

想いが交錯します。

福岡新一さんの動的平衡という本に、生命には「継続する為」に、あえて破滅に向かうシステムが組み込まれている、という話が書いてありました。ポーランドの人たちの思いやりと優しさは滅びることに逃げずに向き合ってきている歴史から来ているのかもしれません。

th_IMG_2927.jpg

「日本は滅びる」
そう口に出して本気で一期の生死に向き合ったときに「それでも続いていく何か」と、そこへ注ぎ込む生きる情熱が途切れることなく湧いてくるのです。





慣れないベッドの溝にはまってスースー寝ている一星の手に、自分の手を重ねました。
窓の外では相変わらず舗装がされないポーランドの道路に沿って、オレンジ色の外灯が灯っています。


2012/07/15  by

コメントする