雲水喫茶の日替りマスター!!

空色カンバス

八月に入り、夏真っ盛りだった街にも四季の移ろいを感じるようになりました。今日は読書の秋にむけておススメしたい一冊の本をご紹介します。


六月に二十時間ほど故郷に立ち寄った際、父親から同じ米子市出身である靖子氏のこの作品を手渡されたのがご縁です。靖子氏は父親が親しくしていた近所の住職さんの次男で、昨年急逝されたその住職さんが「お世話になった方々にこの本を送って欲しい」と言い残しておられたことも知りました。

ベルリンでスーツケースから出して、じっくり読みました。

この本には父親の後を継いで住職になった三十路間近の日比野隆道と、その妹で進路に悩む高校三年生のゆかりが登場します。父母を失った年齢差のある兄妹が切り盛りするお寺。そこに、夫から逃げてきたという美しい女性が迷い込み居候となってしまいますーーー

本書のプロフィール欄では一切触れられていませんが、誰もが靖子氏はお寺の生まれだと憶測せずにはいられないでしょう。なぜなら「日本のフツーのお寺」の日常が実にイキイキと描写されているからです。

縁切り寺は
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 無論、今は江戸時代ではない。現代では寺院はそんな特権を有していないし、公的に夫婦の縁を切りたいと願う者は本来ならば山門をくぐるのではなく役所のドアをくぐるべきだ。(p66) 
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お寺の寺務は
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 予想通り、兄ちゃんは寺務室で行事の案内状を作っていた。うちはお檀家さんの数はそう多いほうでもないけど、それでもその全てに配りものをするとなるとちょっと大変だ。これを昔はいちいち手書きで宛名を記したらしいから気が遠くなる(p90)
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「そういえばこんなこと、友人の和尚も言ってたな・・・」
そんなリアルな話題が盛りだくさん。

20代の著者ならではのポップな文章も読み易いです。アララギくんとツキヒちゃんのように軽快な兄妹のやりとりが心地よく、まるで自分がお寺で暮らしているかのような楽しい気持ちになります。

幼なじみで在家出身の清明和尚は
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 僕の忠告を完全にスルーして(昔からだ)、清明は白い歯をちらりと覗かせて笑った。タバコを吸うくせに、芸能人みたいに奇麗な歯の色をしている。男の僕からみても清明は美形だった。髪を剃る前はずいぶんとモテたし、剃ってからもニット帽を被って普通にモテている。しかし、今のところ身を固めるつもりはどうもないみたいだった。(p103)
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地蔵菩薩は
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 人気者の地蔵菩薩さんは、弥勒菩薩さんが本気を出すと約束した五十六億七千万年後まで人々を救済する任務を背負っている。過労が心配だ。(p130)
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これらのくだけた表現があればこそ、各章の頭に引用される原始仏典からの言葉も自然と心に響きます。流れ出る涙を家族に隠しながら、しっとり読みました。


「日本のフツーのお寺」の本当の好さ、世界に類を見ないその深い魅力がスッと染み入る作品。若手のお坊さんや、日本仏教に興味を持っていざお寺に足を運んでみようという世界中の老若男女に是非、読んで頂きたいです。

今週も好い日々となりますように・・・!
祈諸縁吉祥福壽無量

星覚九拝

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2014/08/03  by

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